【塩尻市×MTJ】官民共創でのスマートモビリティの取り組みの最前線:交通空白解消と便利で持続可能な地域交通の実現へ

日本は公共交通機関が発達しているように見えても、それは都市部エリアにとどまり、実際は自家用車への依存度が高い国でもあります。
特に加速する高齢化に伴い、「免許返納後の移動手段確保」が大きな社会課題となっています。国としてもデジタル技術などを駆使したこれら交通空白の解消と、持続可能な地域交通網の構築が、目下注力されています(例:国土交通省 地域交通DX MaaS 2.0スマートモビリティチャレンジなど)。

長野県塩尻市も同様の移動課題を抱えていますが、その解決に向けて全国でも早い2020年度から「塩尻MaaSプロジェクト」を始動しました。一般財団法人 塩尻市振興公社(以下「塩尻市振興公社」)や民間企業との共創を進めています。
塩尻市で位置付けている「MaaS」のキーワードは、官民共創の交通DXです地域内外のさまざまなステークホルダーを巻き込んで「より暮らしが便利になる公共交通の実現」を目指しています。

本記事では、その仕掛けづくりに活用されたMaaS Tech Japan開発の「Noluday」をベースにしたMaaSアプリ「おでかけ塩尻ナビ」に触れながら、塩尻市のMaaSをはじめとする交通DXを通じた、地方都市における持続可能な移動社会の実現に向けた取り組みについてまとめています。

登場人物

今回お話を伺ったのは、同プロジェクトの初期段階から携わり続けている塩尻市 商工観光部 先端産業振興室 係長代理 百瀬氏と主事 山田氏です。

左から塩尻市 商工観光部 先端産業振興室 係長代理 百瀬氏、主事 山田氏、MaaS Tech Japan 大賀

塩尻市 商工観光部 先端産業振興室

先端産業の振興に関する事業を所管し、塩尻MaaSプロジェクトのほか、地域DXセンター「core塩尻」なども担当。塩尻MaaSプロジェクトでは、自動運転バスの実証やAI活用型オンデマンドバス「のるーと塩尻」の導入、地域の交通情報が集約したMaaSアプリ「おでかけ塩尻ナビ」の立ち上げ・運用などを主導している。

MaaS Tech Japan

2018年創業。「100年先の理想的な移動社会の基盤を構築し、移動社会を高みにシフトさせる」ことをビジョンに掲げ、データドリブンの最適な交通ソリューションを提供する。移動データを結合・可視化するシステムやMaaSアプリといったプロダクトやサービスの展開を通じ、それぞれ異なる課題を抱える都市や地域ごとにさまざまなモビリティデータを利活用することで、交通のDX化を推進している。

塩尻市がMaaSに取り組む理由は、自家用車から公共交通への転換を促すため

塩尻市 百瀬氏

塩尻市をはじめとする地方都市においては、公共交通の不足による自家用車中心の移動社会の中で、さまざまな課題が顕在化しています。例えば、高齢者の免許返納後の移動手段の確保やそれに伴う介護世代の送迎時間の確保です。他にも、CO2排出量の削減に向けた環境配慮や道路渋滞の解消など、「移動」に関わる課題解決は重要な施策として位置付けられています。

とはいえ、ただ移動サービスを増やせばいいというものではありません。少子高齢化に伴う人口減少やドライバー不足などの課題がある中で、既存交通と新しいモビリティサービスを組み合わせながら、市民はもちろん、観光などで訪れる方も利用しやすい交通網を構築する必要があります。

塩尻MaaSプロジェクトは、これらのニーズや課題に応え、暮らしがより便利になる公共交通の実現を目指し2020年度に始動したプロジェクトです。

塩尻MaaSプロジェクトではまず、より利便性の高い公共交通の実現に向けて新しいモビリティサービスの導入に着手しました。2021年度からは、自動運転バス(バス型自動運転車両)の実証や、AI活用型オンデマンドバス「のるーと塩尻」の運用などを進めています。

塩尻市 百瀬氏

例えば、自動運転バスは、既存の路線バスにおけるドライバー不足の解消や交通事故の削減、自家用車以外の交通手段の確保など、主に公共交通の持続性と交通DXの観点から導入検討を進めてきました。将来的には人を介在させずに運行を継続できる形とし、抜本的な交通事業者の人手不足解消につながるソリューションとなる、早期の社会実装を目指して日々走行実証などを重ねています。

「のるーと塩尻」は、利用者が乗りたい時にアプリや電話で呼べる新しい乗合バスサービスです。AI(人工知能)が乗合状況や道路状況に応じ、適宜効率的なルートを生成し運行することで、限りある人的・金銭的・時間的リソースの中で輸送能力と市民の移動利便性を同時に高めています。2022年4月から定期運行が開始し、市民の移動がより便利になるよう運行エリアも少しずつ拡充されています。

のるーと塩尻の運行バス(塩尻市プレスリリースより)

使ってもらえなければ意味がない。住民の社会受容性を高める施策も同時に実施

塩尻MaaSプロジェクトの推進で重視しているのが、ユーザーである住民の社会受容性です。

塩尻市 百瀬氏

利便性の高いモビリティを導入しても、地域住民の方に使われないと意味がありません。新しいモビリティサービスの導入をユーザー側が受け入れてくれるか、そのサービスは日常の移動を便利にできているか、使いやすいユーザーインターフェースになっているかなど、住民への価値提供を巡って常に問い続けながらプロジェクトを進めています。

例えば、のるーと塩尻の導入時には、民間事業者と連携して地域住民向けの周知活動を徹底しました。公民館で毎週のように利用方法などの説明会を行い、多くの方にサービスを理解いただくための地道な活動を続けました。
自動運転バスも同様に、地域住民への周知活動に余念がありません。

塩尻市 百瀬氏

自動運転を身近に感じてもらうため、実際に自動運転の技術に触れられる機会づくりに取り組んできました。 市内の小中学校では、探求学習の一環として出前講座や試乗会を行い、「自動運転がある未来」を考える授業も実施しています。授業で興味をもった生徒が後日、家族を連れて試乗会に来てくれることもあります。

こうした積み重ねによって、塩尻市内での自動運転バスの認知度は着実に高まっています。

「単なる導入」にとどまらず、官民共創に加え、地域住民とのコミュニケーションも密に図りながら、ファンをつくり増やすことを意識し続ける塩尻市。新しいモビリティやMaaSという考えを受け入れる素地が地域内に醸成されつつあるとの手応えを感じています。

多様なモビリティをシームレスにつなぐNoluday

鉄道・バス・タクシーなど、一連のモビリティサービスの検索や予約システムがバラバラでは、使い勝手がよくありません。塩尻MaaSプロジェクトでは、既存の公共交通や新しいモビリティサービスを含め、あらゆるサービスや情報を集約・接続させ、かつ地域住民も利用・参加しやすい仕組みを構築することで、自家用車から公共交通への転換が図られるのではないかと考えています。

塩尻MaaSプロジェクトの将来構想(塩尻市プレスリリースより)

塩尻市では、これらのモビリティをシームレスに接続させるためのひとつのツールとして、MaaS Tech Japan開発の「Noluday」をベースに、「おでかけ塩尻ナビ」というLINEアカウントの運用を進めています。

おでかけ塩尻ナビとは

移動需要と移動総量を増やすことが可能な地域密着型MaaSアプリ「Noluday」をベースに、塩尻市との共創プロジェクトとして住民ニーズのヒアリングや仮説検証に基づきMaaS Tech Japanが構築しました。市民のおでかけをより手軽便利にサポートするものとして、2024年度から運用されています。

定時定路線バスやオンデマンドバスなどの塩尻市域を運行する交通サービスについて、検索・配車・閲覧ができ、「地域の情報・現地の交通情報がひとつにまとまっている」ツールです。

地域住民との接点を構築。さまざまなデータを活用した公共交通の改善と最適な移動体験を

MaaS Tech Japanとの連携は2021年度から。

塩尻市 百瀬氏

MaaS Tech Japanとは、塩尻MaaSプロジェクトにおける一連の官民共創の中でやりとりしていた企業からのつながりでした。ちょうどその頃、自動運転バスやのるーと塩尻を単体のモビリティとして導入するのではなく、既存の公共交通も含めてそれらをシームレスに接続させて地域全体のモビリティサービスとして運用していく必要があるという課題感を感じていました。「MaaS」という考え方の導入はその解決につながるのでは、と考えました。

Noludayをベースに塩尻市に合わせたアプリを構築するのにあたり、MaaS Tech Japanは塩尻市とともに、ペルソナの設定から着手しました。

日常的には自家用車を利用して移動している方々が、アプリを使いたいと思える動機や求める機能、課題感などを洗い出すべく、MaaS Tech Japanは頻繁に現地へ赴き、住民アンケートを実施するなど、自分たちの目で実情をつかんだ上で、アプリの機能要件を落とし込むプロセスを踏みました。

MTJ 大賀

ユーザー調査を経てニーズが大きかったのはやはり、さまざまな移動手段をワンストップで検索できる複合的な検索機能でした。

おでかけ塩尻ナビ(Noluday)の特徴のひとつは、塩尻市域で運行しているさまざまな交通サービスの情報をひとつに集約した上で最適なルートの提案や予約をアプリひとつで完結できることです。さらに、移動の目的先となる場所やイベントなどと連携し、住民の「行きたい」を創出することで、公共交通での移動量を増やす仕掛けにもなっています。その結果、塩尻市内を移動・回遊する人が増え、まち全体の活性化に貢献することを目指しています。

もう一つ重要な機能は、ユーザーがおでかけ塩尻ナビを使った実績(履歴)を管理者側のダッシュボードにデータとして蓄積される機能です。さらに、定量データに加え、アンケートを実施してそのデータを集計することも可能なので、住民の交通・移動ニーズを直接把握することができます。

塩尻市 山田氏

おでかけ塩尻ナビに期待していたことは、地域住民との接点の構築です。我々公共交通の提供者と実際に利用するユーザーが直接的に情報発信し合える環境を整えることで、実際に検索・利用したモビリティデータやアンケートによる利便性の感想・今後の要望などを収集し、公共交通のさらなる改善に活かしたいと考えています。

またこれまでは、公共交通の情報を専門的に発信するツールはありませんでした。しかし、日常のコミュニケーションツールとして広く使用されているLINEを活用したアプリからモビリティやサービスの情報を包括的かつ横断的に伝えられるようになり、利用者は交通に関する情報をスムーズに受け取ることができます。これにより、最適な移動体験を提供できるようになるのでは、と考えています。

ここでひとつ、おでかけ塩尻ナビの機能を活用し、自動運転バスの利用促進とまちの活性化を目的とした官民共創施策の事例を紹介します。
それが自動運転バスでの買い回りスタンプラリーです。

MTJ 大賀

Noludayに搭載されている「スタンプラリー機能」の一部を活用し、自動運転バスの利用促進に向けた買い回りキャンペーンを企画しました。
自動運転バスの停留所となっている事業者の方々と連携し、「自動運転バスに乗って対象の店舗に来店するとノベルティをもらえる」というキャンペーンです。それにより、「公共交通を利用して外出する」という動機と地域の事業者と公共交通の利用促進に向けた関わりしろを作り出しました。地域全体を巻き込んだまちの活性化に向けた施策となっています。

詳しくはHPより

こうしたさまざまな周知活動や利用促施策、地域住民との丁寧なコミュニケーションにより、少しずつモビリティやMaaSへの理解・利用定着が図られている手応えがあります。

塩尻市 百瀬氏

のるーと塩尻の利用予約は6割がアプリ経由です。依然として電話予約も多いのは確かですが、それだけ新しいモビリティ自体を使いやすいと思っていただけている証拠だと感じています。

官民共創による、地域交通の維持・発展へ

目的地があってこそ人は移動するものです。地域交通の維持・発展に向けては、目的地と移動手段の選択肢を増やしていくことが非常に重要だと考えています。

塩尻市 山田氏

これまで継続的にプロジェクトを推進していく中で、自動運転バスやのるーと塩尻といった先進モビリティの受容性が高まっている感触はあります。塩尻市が交通DXに注力していることについて、地域住民の方も認識していますし、何よりこれらのサービスが地域の事業者の方々や、エンドユーザーとなる住民の皆様の間でしっかり広がっていることに驚きと同時に嬉しさを感じます。

一方で、自動運転バスの社会実装に向けては、地域事業者との連携を強化していく必要性を強く持っています。

塩尻市 百瀬氏

塩尻市が自動運転技術を活用して先進的な移動サービスの導入に取り組んでいることは、地域住民の方にも少しずつ広まり、地域外の方からも注目される機会が増えてきました。

とはいえ、まだまだ発展の余地は大きいと感じています。例えば今回のおでかけ塩尻ナビの機能のように、自動運転バスの利用に応じて事業者が何かポイントを付与したり、地域のイベントを目的地としてつなげたりと、地域の多様なプレーヤーが互いにアイデアを出し合い、連携を深めていくことができるはずです。

こうした取り組みを重ねることで、塩尻市に暮らす皆様の生活の質(QOL)向上につながることを目指しています。

MaaS Tech Japanとしても2021年度からMaaSを軸に塩尻市と連携を重ねてきました。

MTJ 大賀

今回はNoludayをベースにMaaSアプリ「おでかけ塩尻ナビ」を構築しましたが、ただアプリを開発して終わりではなく、塩尻市でのユースケースからさらなるユーザーのニーズを拾い上げ、塩尻市というまちを起点に、同様の移動課題を抱える他地域にもMaaSやデータ活用の有用性を広げていきたいと考えています。

塩尻市のように、公共交通の利用促進を目指して地域住民の意識改革やお出かけしたいと思えるきっかけづくりまで考えた目的地との連携に取り組んでいるのは全国的に稀で非常に先進的です。MaaS Tech Japanとしてもまだまだ道半ば。これからも知恵を出していきながら、全国の市町村の参考となる塩尻市といろいろな形で市ならではの持続可能なMaaS社会を目指すとともに、誰もがあらゆる場面で移動しやすい環境づくりを通じて日本全体の活性化にも貢献してまいります。

本件についてもう少し詳しく聞きたいというご要望はもちろん、移動や地方交通などMaaSに関するお悩みや協業に関するご相談、MTJが展開する各種プロダクトやサービス内容についてなどなど、お気兼ねなくお問い合わせください。

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